
ライナスはマティアス司令官を生き別れの兄と主張。しかし、記憶喪失のマティアス司令官にはそれが真実か確かめる術がない。
マティアス司令官はライナスの主張を信じるのか? 彼が下した決断は――。
(嘘をついているようには見えないな。ここは兄として接してやるべきか)
「ライナス、今まで辛かっただろう? 寂しかっただろう? これ以上、悪事を重ねる必要はあるまい」
マティアス司令官は優しい表情で答える。すると、ライナスは泣きながらマティアス司令官の身体へ抱き着いた。マティアス司令官もライナスをそっと抱きしめる。
「兄貴……ずっと探していたんだぜ。まだどこかで生きていると信じて……」
「そうか。お前にはつらい思いをさせてしまったな。安心しろ。私はもうどこにも行かない。お前はこの軍事基地で安心して暮らせ」
「兄貴、ありがとう。でも俺はここの兵士たちを襲撃したんだぜ? 兄貴が許してくれても他の兵士たちは許してくれるのか?」
ライナスの正体がマティアス司令官の実の弟であることが確定したとしても、ライナスを軍の仲間として受け入れるには軍の関係者たちが納得できる理由は必要だ。
「お前のことは私が全ての責任を取る。軍の皆にも伝えておこう。その代わり、お前には軍の一員として働いてもらうぞ」
「俺が軍人になるってことか?」
「その通りだ。お前の実力なら大きな戦力になるだろう」
「喜んで引き受けよう。……ただ、俺は今まで一匹狼だったから、本業の軍人みたいに集団で連携して戦うのは苦手だぜ」
「問題無い。戦い方はお前の好きにして良いぞ」
「そうさせてもらうぜ」
今まで1人で戦ってきたライナスにとって、チームで連携を取るやり方は苦手だ。
戦地へ向かう時はワンマンアーミーとして戦い、時には持ち前の弾丸制作技術を生かした技術担当として働くことになるだろう。
ライナスは心身ともに緊張がほぐれ、同時に蓄積した疲労が彼の身体にのしかかる。とても眠そうな表情だ。
「それにしても疲れたな。今日は風呂入って休みたいぜ……」
「そうか。体を洗い流してゆっくり休むと良い」
感動の再会を果たしたマッカーサー兄弟は仲良く一夜を過ごしたのだった。
記憶喪失だったマティアス司令官は、ライナスとの生活で少しずつ幼少期の記憶を取り戻していった。
――そして数日後、俺たちの休暇はあっという間に終わってしまった。
この数日間はライナス調教ビデオの編集、販売作業を行っていた。売り上げはうなぎ上りだぜ。
「あ~あ、ついに休暇も終わっちゃったよ……。もう働きたくない……」
「もう大きな仕事はやり遂げたし、あと少しの辛抱だ」
「ライナスの奴、どうなったのかな~? 良いビデオモデルだったから処刑されていないことを祈るぜ」
「ライナスの生存はマティアス司令官に聞けば分かるだろう。司令室に行ってみようか」
俺たちは司令室へ向かった。マティアス司令官なら空気を読んでライナスを生かしてくれることを祈るぜ。
「どうだ、休暇は楽しめたか?」
「おう! ライナスのホモビを編集、販売してやったぜ!」
「それよりライナスはどうなったのか? 生きているのか?」
ミカエルがマティアス司令官にライナスの生死を問う。マティアス司令官の返答は……。
「安心しろ。ライナスは生きている。彼は改心して軍の元で働くことになった」
「それはよかったぜ! あいつに死なれたら、もうライナスのビデオを作れなくなっちまうからな!」
「ライナスは軍人としてだけではなく、ビデオモデルとしても働いてもらわないとな!」
「タツヤさんとレイさんは本当にホモビ撮影のことしか考えてないんだなぁ……」
元凶悪犯といえども、活用できる人材は有効活用すべきってはっきりわかんだね。
「それから、ライナスは私の実の弟であることが判明した」
「ファッ!?」
マティアス司令官から語られた衝撃の事実。言われてみればマティアス司令官とライナスは2人とも金髪ロングのいい男だもんなぁ。性格は全然似てねーけど。
同じ兄弟でも環境次第で性格がガラリと変わってしまうということを学んだぜ。
「ライナスは私の部屋にいるから仲良くしてやってくれ。諸君の休暇はもう少しだけ伸ばしてやろう」
「マジ!? ありがとナス! じゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらうぜ~」
俺たちはマティアス司令官の許可を得て、司令室の奥にあるマティアス司令官の自室へ入った。
さすが軍のお偉いさんの部屋というべきか、広くて豪華な欧風の部屋だぜ。そして部屋にはライナスの姿があった。
「よぉ、ライナス! 生きていて良かったぜ!」
「なんだ、てめぇらか。この間は散々な目に合わせやがって……!」
ライナスが怒りの目を俺たちへ向ける。ここで俺たちを襲う気か!? そう思った直後、ライナスは冷静な表情に変わった。
「……だが、俺も罰を受けてすっきりしたぜ。これからは罪を償いながら軍の一員として働くことになったんだ」
俺たちが今まで見てきた荒くれ者のライナスが、まるで別人のように落ち着いた様子だ。
「更生できてよかったね!」
「罪を償うならもっとホモビに出演してお金稼ごうぜ!」
「ライナスのビデオはあれからいっぱい売れたぜ~」
「なら俺にも金寄こせ! それにあんな屈辱は二度とゴメンだ!」
ライナスもナイト軍曹と同じで金にがめつい男だったとはたまげたなぁ。
「まぁ、あれはライナスへの罰ってことで、残念ながらノーギャラなんだよな」
「こいつ……!」
こいつはそんなことで怒ってないで、まず生きて帰って来られたことに感謝しろよな~?
ライナスは気を取り直し、何かの準備を始める。
「せっかくここへ来たんだからゆっくりしてきな。お前らにコーヒーを入れてやる」
「マジ? ありがとナス!」
ライナスは俺たちを豪華なテーブルの席へ座らせ、その後1人でキッチンへ向かっていった。
コーヒーメーカーにコーヒー豆を入れ、スイッチを入れる。そこから香り引き立つコーヒーが流れてきた。ライナスは全員分のコーヒーをテーブルへ運ぶ。
「おらよ。できたぜ」
「じゃあ、乾杯っすね。卍解~」
俺たちは乾杯してコーヒーを飲んだ。これはうまい (確信)。絶対に高級豆使ってるぞ。
その後、俺たちはライナスから興味深い話をたくさん聞いたぜ。
マティアス司令官とライナスが裕福な貴族育ちだったこと。
戦争で両親を亡くし、兄弟が離れ離れになってしまったこと。
少年期から青年期はとにかく生き延びることに精一杯だったこと。
軍事基地付近にあるカフェでコーヒー飲み逃げしたら、たまたま同じ店にいた軍人に捕まりそうになったから返り討ちにして軍人を負傷させ、それが発端で軍にマークされ、軍と対立することになってしまったこと。コーヒー代ごときケチるなよ。
この日の俺たちはライナスと楽しい一日を過ごしたのであった。