
今回はハンニバル中将視点で進んでいくぜ。
俺が無法者どもとの戦いで苦戦を強いられている頃、ハンニバル中将はたった1人で無双していた。
「ぎゃああああああ!!」
「冗談じゃねぇ! あんな化け物がいるなんて聞いてねーぞ!」
「ハッハッハッ! 血祭りにあげてやるぜぇぇぇぇ!!」
ハンニバル中将は手持ちの巨大バズーカから繰り出される砲撃で、あっという間に周辺を焼け野原に変えてしまったのだ。
辺りは血の海、焼け焦げた死体、引き裂かれた死体で溢れかえっている。
「……ったく、最近の無法者どもは弱すぎて話になんねーな。俺とマティアスが出会った時代の無法者どもはもっと骨のある奴らが多かったぜ?」
今から20数年前、無法者の数は今とは比べものにならないほど多く、尚且つ屈強な肉体を持つ者が多かった。
文明と利便性の発展により現代人が軟弱になったのと同じように、現代の無法者も昔の無法者と比べて軟弱になってしまったのだ。
エーリッヒ大佐やハイド伍長にとっては、現代の無法者はとても軟弱とは言えない強さを持っているがな。
ハンニバル中将は引き続き、このヌルゲーをつまらなさそうに淡々と突破していく。
しばらく先へ進むと、他の無法者どもよりも一際強そうな奴と遭遇した。
顔半分を覆う兜、古代戦士風の装備、巨大な大剣、そして偉そうにマントをつけた大柄な戦士。
……そう、こいつは無法者の親玉ゴリアテと瓜二つの風貌をしているのだ。
「オレのシマを荒らしているのは貴様だったか。オレの名はクロノステラ! 双子の兄ゴリアテと共に無法地帯を支配する戦士だ!」
「あ? てめぇごときがこの無法地帯を支配しているだと? ……それにしてもてめぇ、小せぇな~おい」
「小せぇだと……!?」
ハンニバル中将はクロノステラを見下ろしながら、バカにしたような表情で奴の頭を指でツンツン突く。
クロノステラの身長は188cm。兄のゴリアテと比べるとやや小柄だが、ゴリアテに匹敵する戦闘力を持つ。
単純な力勝負に至っては兄ゴリアテでも敵わない怪力の持ち主だ。
「てめぇの兄貴のゴリアテって奴はここにはいねーのか?」
「この広い荒野を統率するにはオレたち2人が同じ場所に留まるわけにはいかん。普段は別行動をしている」
「そうか……それは残念だ。2人まとめて掛かってくれりゃ、ちょっとは楽しめると思ったんだがな」
「貴様! どこまでオレたち兄妹をバカにすれば気に済むんだ! オレはこの自慢の怪力で多くの男の腕をへし折ってきた! 貴様も二度と戦えない体にしてやろう!」
「身の程知らずめ。俺に力勝負を挑むとはいい度胸だ!」
もはやどちらが悪役か分からない2人。クロノステラは大剣を地面に突き刺し、ファイティングポーズを取る。
「あたたたたっー!! ホワッチャー!!」
どこかの世紀末拳法家のような叫びを上げながら高速連続パンチを放つクロノステラ。
しかし、ハンニバル中将はそれを全て指一本でガードしたのだ。
「なっ!?」
「あー、つまんねーな。てめぇの腕はへし折らないでやるから、さっさとその剣持って掛かってこいよ」
「貴様……! 後悔させてやる!」
クロノステラは先ほど地面に突き刺した大剣を再び手に取り、大剣の取っ手に隠されたスイッチを入れると刃は炎をまとった。
そして炎をまとった大剣をハンニバル中将目掛けて横に振る!
しかし、ハンニバル中将は炎をものともせず、大剣の刃を左手の指2本であっさり受け止めた。
ハンニバル中将の圧倒的強さを前に、クロノステラは恐怖で怯えている。
「な、何者なんだ、貴様は……!」
「俺はハンニバル・クルーガー中将だ。てめぇじゃ準備運動相手にすらなりゃしねぇ。さっさと終わらせるぜ」
ハンニバル中将は左手の指で燃えた大剣を受け止めたまま、右腕の拳でクロノステラの顔面を殴った。
「ぁべしっ!」
クロノステラはあっけなくその場に倒れてしまった。頭部を覆っていた兜はペチャンコに潰れ、兜の隙間から血痕が流れている。
ハンニバル中将のたった一撃の拳でクロノステラは生命活動を停止。死んだのだ。
ハンニバル中将は俺調教師と違って敵に容赦しない男だ。
残念ながらクロノステラはゴリアテと兄妹仲良く調教されて犬奴隷とまではいかなかった。奴は女だからどちらにしろ調教不可能だがな。
ちなみにハンニバル中将はクロノステラが女であることを匂いで薄々気づいていたらしい。
「さて、ゴリアテって奴とライナスもさっさと潰しにいくか」
ハンニバル中将は炎をまとった大剣を持ち主の死体の元へ放り投げ、その場を後にした。いずれ彼女の死体は焼けただれるだろう。
しばらく先へ進むと、テントがあちこちに設置されたエリアへたどり着いた。
「奴らのアジトか?」
ハンニバル中将は再び戦闘態勢に入ろうとしたが、その瞬間、テントから一般人と思われる人間たちがゾロゾロと姿を現した。
「おじさん、誰? しゃぶりましょうか?」
話しかけてきたのは目が虚ろな青年だ。無法者どもからよほどひどい目にあわされたのか、精神がイッてしまったようだ。
周りの人間たちは緊張した様子でハンニバル中将を見つめている。
ハンニバル中将は彼らを一目見て、無法者どもにさらわれた市民たちであること、青年が壮絶な目にあったことを察した。
「やれやれ、こんなところまで連れていかれて、さぞ大変だったろう。もう大丈夫だ」
ハンニバル中将は青年の目の前でしゃがみ込み、彼を優しく抱きしめる。すると、虚ろだった青年の瞳は輝きを取り戻した。
「ほんとに? もう僕らは自由なんだ!」
「軍人さん、ありがとうございます!」
市民たちはハンニバル中将の周りでお礼と歓喜の声を上げた。
「んじゃ、俺がお前らを安全な場所に届けてやるからついて来い」
「はい!」
(こりゃ、俺が荒野に戻ってエーリッヒやナイトと合流するのは時間が掛かりそうだな。あいつらならやってくれると信じるぜ)
ハンニバル中将は市民たちを連れ、一旦無法地帯とスラム街を後にすることとなった。