
エーリッヒ大佐の任務を終えた俺たちは次の任務を受けるために司令室へ向かった。しかし、そこで見たのは異様な光景だ。
マティアス司令官の隣にハンニバル中将が立ち、席の向かい側にはエーリッヒ大佐、ナイト軍曹、ハイド伍長、そして俺たちの知らない兵士たちが立っていた。
「なぁ、みんなで司令室に集まってどうしたんだ?」
「次はナイト軍曹から任務を受ければいいんだろ?」
「いや、今はそれどころでは無い」
マティアス司令官が真剣な表情で返事をする。みんな集まっているということは緊急事態か?
「基地から遠く離れた場所にある”スラム街”を偵察していた兵士から情報があった。スラム街に隣接する荒野の無法者たちが、軍事基地を一斉に攻撃する準備をしているとのことだ」
「な、なんだってええぇぇぇぇぇぇ!?」
「そんな、めちゃくちゃヤバいじゃん!」
「おい、それって絶対ライナスが絡んでいるやつだろ!」
「ライナスは一匹狼っぽい感じがしたが……、奴に大勢の無法者を動かす力はあるのか?」
言われてみればライナスはずっと単独で行動していた。奴は強いが、大勢の人間を動かす統率力があるようには見えない。
そこでエーリッヒ大佐が真剣な表情で口を開く。
「ただの無法者が軍を敵に回すとは思えない。しかし、軍を執拗に狙っていたライナスなら関与している可能性が非常に高い。奴がどうやって無法者たちを動かしたかは知らないが、このままでは軍事基地はおろか、周辺の市民たちにまで被害が及んでしまう!」
エーリッヒ大佐は完全にライナスが犯人と決めつけているようだ。
もしライナスが関わっているなら今度こそ調教してやらないとな!
「それってつまり戦争するってことじゃん!?」
「ついに決着の時が来たな。あの時は逃がしてしまったが、今度こそ奴の身柄を拘束してやる!」
「無法者の集まりなんぞ軽く蹴散らしてやるぜ!」
ハイド伍長、ナイト軍曹、ハンニバル中将はやる気満々だ。
「私は軍事基地周辺を守るため、ここに留まる。他の者はスラム街へ向かうのだ。それと、ライナスを見つけたら殺さず生け捕りにしろ。奴へ問い詰めたいことがあるのでな」
ライナスは生け捕りかぁ~。もし捕まえたら身柄引き渡す前に調教しても問題ないよなぁ~?
「了解しました。必ず生きて帰って参ります」
「よし、誰が先にライナスを捕獲できるか勝負だ!」
「ブラザー、これは遊びじゃないんだぞ……」
「あんな奴はたっぷりいたぶって血祭りにあげてぇところだが、マティアスがそう言うなら仕方ねーな……」
こいつ1人いれば楽勝じゃね? って奴がこの中に約1名いる気がするんだが、気のせいか……?
「あの~、俺らはどうすればいいんだ?」
「お前たちもハンニバル中将たちと共にスラム街へ向かうのだ」
「ファッ!?」
おい、新入りの俺たちを戦場に送り込むって正気か!? まぁ、ハンニバル中将がいれば大丈夫だよな……?
「スラム街と荒野の制圧は明日実行だ。今日はしっかりと休み、英気を養うといい。では解散だ」
俺たちは司令室を後にし、自分たちの部屋へ戻った。これから俺たち4人は今後について話し合いをするつもりだ。
「なんだかとんでもない戦いに巻き込まれちまったな……」
「戦争なんか嫌だー。さっさとここから出て家に帰りたいよ~」
「この戦いで死んだら、バーの運営もホモビ撮影もできなくなるもんな……」
突如課された、スラム街と荒野の制圧作戦。今までの任務よりも段違いに危険なのは間違いない。そこで俺が考えた提案は……。
「なぁ、みんなが寝ている時間に脱走しないか?」
「そうだな。マティアス司令官もオレたちに気を許しているみたいだし、脱走できるかもな!」
「いいね! みんなで脱走しよう!」
「……いや、あまり浮かれないほうが良いんじゃないか? 見つかったらきっと処刑されるぞ」
俺とレイさんとヨウスケは脱走に賛成したが、ミカエルだけは脱走失敗のリスクを恐れ反対している。
「軍人さんたちは明日の決戦の準備に追われている。このチャンスを逃したらもう逃げられないぞ」
「レイさんの言うとおりさ。逃げなければ明日の戦いで死ぬかもしれない。だけど逃げればおれたちは自由になれるんだ」
「まぁ、それもそうかもしれんが……」
「さぁ、決めるなら早くしようぜ!」
「……」
ここでミカエルが賛成してくれれば脱走決定だ。
「……わかった。みんなで一緒に脱走しよう」
「よし、決まりだな! 早速今から脱走計画立てようぜ!」
「よし、今夜はみんなで脱出するぞ!」
「やっと自由になれるね!」
そして数時間後、ついに軍事基地脱出の準備が整った!
「この時間帯なら1階には誰もいないことが分かったんだ」
「やるな、ミカエル! これでオレたちは無事に脱出できるってわけだ!」
「無事に出られたらみんなで遊びに行くのはどう?」
「賛成だ! 脱出祝いしようぜ!」
俺たちは誰もいない1階のフロアを走り抜け、ついに軍事基地の外へ出た。
軍事基地周りは外灯がいくつも設置されていて深夜でも明るい。だが、こんな時間に起きてる奴はきっといないから大丈夫だろう。
俺たちはそう思いながら軍事基地の外へ向かう。
「……よお、こんな時間にどこへ行くつもりだ?」
聞き覚えのある男の声が俺たちを制止する。暗闇から姿を現したのはハンニバル中将だ。
よりによって一番見つかりたくない奴に見つかっちまったぞオイ!
「夜に外を歩いちゃいけないぜ。新入りども。俺は敵の襲撃に備えて基地の見張りをやっていたのだが……、お前らは何しにここへ来た?」
「あ……いや……オレたちは別に……」
「眠れないからちょっと散歩してるだけだぜ……」
適当にごまかす俺たち。恐怖のあまり、その場にいる俺たち全員が体を震わせている。
「基地周辺の敵のことは心配いらないぞ。お前らは部屋に戻って夜を過ごせ」
「ほっ……」
意外にもハンニバル中将の表情と口調は優しい。俺たちが脱走しようとしていることに気づいていないのか?
「……だが、お前らが基地から脱走しようなんて考えているなら……お仕置きが必要みたいだな!」
(バレてる!?)
「あ、あわわ……」
まるで目の前の獲物を狩ろうとしているかのように豹変するハンニバル中将。やっぱりバレてるじゃねーか!
「まあ、俺も鬼ではない。今すぐお前らの部屋へ引き返せば許してやらんでもないぞ?」
さすが軍のお偉いさん。怒らせるとやべー奴だが心は広いんだな。
ここは素直に引き返すべきか? だが、このチャンスを逃したらもう脱出はできない。
ここで俺が下した決断は……?