
俺たちの目の前に映し出された人型のホログラム。そいつはヒゲを生やした白衣のおっさんの姿に変わった。
「うわっ! なんだこのおっさん!?」
「彼はライデン博士。サイバータワーの主であり、天才科学者だ」
このおっさんがエーリッヒ大佐の知り合いの博士だと!? マッドサイエンティスト感半端ないぜ。
「エーリッヒ大佐、ずいぶんと面白い仲間たちを連れてきてくれたね。先ほどの戦闘データは記録させてもらったよ」
「ライデン博士、お久しぶりです。ところで、あなたが集めたデータを我々の軍に譲って頂けないでしょうか?」
「あぁ、君たちの性能をテストし終えた後にデータを分けてあげよう」
「ありがとうございます、ライデン博士。頑張って頂上まで上がってみせます」
ライデン博士はエーリッヒ大佐とのやり取りを終えると、俺たちのことを興味深そうに見つめる。
「タツヤ君、レイ君、ミカエル君、ヨウスケ君と言ったな。私の技術さえあれば、君たちが喜びそうな世界の実現もそう遠くはないぞ」
「というのは?」
「クローン技術により、優秀な個体を大量生産する。人為的に培養・急成長させる技術で子供を急速に大人へ成長させる。人工子宮により単体生殖を可能に、つまり男だけで繁殖可能な世界になる。どうだ、素晴らしいだろう?」
ライデン博士の極めて倫理観に欠ける発言によって、その場にいる全員が凍り付く。
……ん、待てよ? 男だけで繁殖可能な世界だとォ!?
「男だけで子供作れるって、すげーユートピアじゃん!」
「ついにオレたちホモの時代がくるどー!」
「いやいや、まずいでしょ! そんな世界になっちゃったら!」
「いや、合理的で悪くないかもしれないぞ。男だけで繁殖できる世界の何が問題なんだ?」
「えぇ…… (困惑)」
俺とレイさんとミカエルはライデン博士の理想とする世界に賛同した。ヨウスケは乗り気じゃ無いが。
そこでエーリッヒ大佐が真剣な表情で口を開く。
「ライデン博士、あなたの技術力はとても素晴らしいものです。しかし、行き過ぎたバイオテクノロジーを駆使してしまうと、いずれ人間が人間で無くなってしまいます。その上、戦争を誘発させる原因にもなり得ます。かつて世界各国で肉体を強化された人間や、遺伝子操作で生まれた人間兵器が作られて戦争に利用されたこと、あなたもご存知でしょう?」
かつて俺たちが任務で向かった生物兵器研究所跡地。あそこで集めた資料の内容を思い出すぜ。
人間を兵器化して利用するのは非人道的だ。クローン技術や培養技術は便利だが、人間を大量生産可能にしてしまうのはやべぇよ……やべぇよ……。
「エーリッヒ大佐、私は戦争が起こることよりも、マティアス司令官やハンニバル中将のような強くて優秀な人材が1代限りの命で終わってしまうことに危機感を感じているのだよ。ハンニバル中将は生まれつき戦闘用に品種改良された人間兵器故に生殖機能が欠けている。戦闘マシーンとなるべく人間に性欲や恋愛感情は邪魔だからな。マティアス司令官は真面目過ぎて女や色恋沙汰に一切興味を持っていない。エーリッヒ大佐、君も天才的技能と美貌を持ち合わせておきながら、仕事に没頭しすぎて恋愛どころでは無いのだろう? しかし、これは君たちが悪いのでは無い。有性生殖のみでしか繁殖できない人間のシステムが非効率で問題があると私は考えている。優秀な人間が異性と交わらないだけで途絶えてしまうなど、あまりにも不条理だと思わないか? 私の技術があれば君たちの子孫を残すことも、クローンを量産することも可能だ」
あのさぁ……こんなところでガチガチのSF世界観を語らなくていいから。
しかし、またしても衝撃の事実が判明した。ハンニバル中将はあんなに強いムキムキマッチョの巨漢なのに不能だったとは悲しいなぁ。
いや、性の知識が全くないピュアなマッチョオヤジを想像するとなかなか可愛いじゃねぇか。
人工子宮で単体生殖可能にする技術は革新的だが、この博士は恐ろしい思考の持ち主だぜ。
ライデン博士の言葉を聞いて絶句するエーリッヒ大佐。そんなエーリッヒ大佐の代わりに俺たちなりの意見を述べてみるぜ。
「おい、ライデン博士。実現するなら男だけで繁殖可能な世界だけにしてくれよな、頼むよ~」
「そうだそうだ。クローン人間を培養して大量生産なんかしたら、人間が道具にされるダルルオ!?」
「マティアス司令官やハンニバル中将のクローンが大量生産なんてされたら嫌な予感しかしないぞ」
「おれはニートだけど、ブラック企業で過労死するまで働かされて使い捨てにされる人間が増えるなんて嫌だー!」
俺たちの主張が正しいのかどうかは分からない。しかし、さっきまで真剣な表情だったライデン博士が笑顔を見せた。
「ハッハッハ! たった1つでも私の思想に賛同してくれる人間たちに会えて嬉しいよ。君たちが無事頂上へたどり着くことができたら、約束通りデータを渡そう。では、さらばだ」
ライデン博士のホログラムは最後の言葉と共に消滅した。エーリッヒ大佐は少し悲しげな表情で口を開く。
「このままではライデン博士が道を踏み外してしまうかもしれない……! 何としても頂上にたどり着き、彼を説得するんだ」
「奴が説得に応じなかったら調教してやろうぜぇ~」
「じゃけん、男だけで繁殖可能な技術を盗んだ後、調教しましょうねぇ~」
「おい、いくらマッドサイエンティストとはいえ、エーリッヒ大佐の知人を調教しちゃまずいだろ……」
「とりあえず平和に解決できることを祈るよ……」
俺たちはジャイアントマシンが塞いでいたエレベーターの扉へ入る。
そして俺たちを乗せたエレベーターは高速で上の階へ上っていった。