
翌日、俺たちは次の試験を受けるべく軍事基地屋上のヘリポートへ向かった。
前回と同じく屋上にはマティアス司令官、ハイド伍長、ナイト軍曹、エーリッヒ大佐、ライナスが立っている。
前回ハゲさせたエーリッヒ大佐の髪型は元に戻っていた。軍の技術力は凄いぜ。
今回の試験の相手はナイト軍曹だ。
「俺はハイド伍長やエーリッヒ大佐のように甘くは無いぞ。俺のフルアーマーの前ではハゲもスタンも無意味だぜ」
「お、お手柔らかにお願いしナス……」
鉄壁の鎧を身にまとうナイト軍曹。こいつはただでさえ硬いのに、”髪なんか必要ねぇんだよ!”も”おじさんブロー”も無意味だと……?
「ハゲが無意味だろうが、この戦い終わったらその鎧を脱がせてやるからなぁ〜?」
「あんなでっかい鎧とバズーカ身につけているからな。鎧の中身はホモビ映えする屈強な男に違いねぇ!」
「ナイト軍曹、あんたの強さは良く知っている。だが胸を借りるつもりなど無い」
「お、おれだってライナス戦でいっぱい活躍したんだからね!」
俺は鞭を、レイさんが竹刀を、ミカエルは二丁拳銃を手にし、ヨウスケは棒を両手で握り締める。
「みんな頑張れー!」
ヨウスケは活力スプレーで俺たち全員のパワーと身体を強化。
ナイト軍曹の鉄壁の鎧にダメージを与えるには、仲間の強化、そして敵を弱体化させることが必須だ。ここは……。
「そのフルアーマーの強度を下げてやるぜぇ〜」
俺は”体縛りの鞭”を放つ。防御力を下げる毒が塗られた鞭で相手の身体を縛る技だ。だが……。
「バスターキャノン!」
ナイト軍曹はバズーカから炎の砲弾を俺めがけて発射。砲弾は俺に着弾と同時に爆発。
「アッー!!」
痛いんだよおおおお!!!!(マジギレ)
俺は大きくふっ飛ばされた。戦闘開始早々やっちまったぜ……。
「タツヤさん、いくらナイト軍曹の動きが遅いからって、正面から突っ込んじゃダメだよ!」
「おう……そうだな……」
その時、レイさんはナイト軍曹の側面へ、ミカエルは背後へ入り込んだ。
「ナイト軍曹、オレと勝負だぁー!」
レイさんは竹刀でナイト軍曹に斬りかかる。
――カキィンッ!
レイさんの攻撃はナイト軍曹のバズーカによるガードであっさりはじき返されてしまった。
レイさんはその反動で後退し怯んでしまう。しかし、これもレイさんの計画通りだ。
(……ミカエル、今だ!)
ナイト軍曹がレイさんに気を取られている間に、ミカエルがナイト軍曹の背後から斬りかかる。ミカエルは敵の背後から攻撃すると攻撃力が増すのだ。
――カキィンッ!
ミカエルのナイフがナイト軍曹の背中に命中。これは決まったか?
「……ん? 何だ今のは。ハエが止まったのかと思ったぞ」
ファッ!? かすり傷にすらならないだとォ!?
「ナイト軍曹の鎧を弱体化させなければ傷一つつけられないってことか……」
「その通りだ。そんな攻撃じゃ俺は倒せないぜ」
ナイト軍曹は左手で剣を取り出し、ミカエルを斬りつける!
「しまった……!」
ミカエルは後方へバク転し、間一髪のところで避ける。
「よくやった、ミカエル。ここからが本番だぜぇ〜」
密かにヨウスケに回復してもらった俺は、すぐに”体縛りの鞭”を放った。俺の鞭がナイト軍曹の胴体に巻き付く。
「くっ! なんだこの鞭は……!」
ナイト軍曹はすぐに剣で鞭を斬る。だが、鞭に塗られた毒によって奴の鎧の強度は落ちたはずだ。
その後、レイさんがナイト軍曹に接近。
「じゃあオラオラ来いよオラァ!!」
レイさんの必殺技”おじさんブロー”がナイト軍曹に叩き込まれる。
「……無駄だ。俺にスタンは効かないと言ったはずだぞ」
ナイト軍曹には少なからずダメージは通っているようだ。だが、ナイト軍曹は怯むことなく剣でレイさんを斬りつけた!
「ぐあっ!」
レイさんは上半身を強く斬りつけられ、うつ伏せに倒れてしまった。
「レイさん、大丈夫か!?」
「うぅ……あいつは砲撃どころか近接攻撃もめっちゃ強ぇ……」
「とにかく早く回復を……!」
ヨウスケが急いで駆けつけ、レイさんの治療をしようとするが……。
「させるか! ファイアウォール!」
ナイト軍曹はバズーカから炎を広範囲に発射。だが、ここで黙って焼かれるわけにはいかないぜ!
「洗い流してやるぜぇ~!」
俺は特製高圧洗浄機による冷水シャワーで、ナイト軍曹のファイアウォールを相殺しようとする。が……。
「うわあああっ!!」
「アツゥイ!!」
ミカエルを除く俺たちはファイアウォールを食らってしまった。さすがにナイト軍曹の攻撃を相殺するには威力が足りなかったぜ……。
だが、奴のファイアウォールの威力を下げたおかげでなんとか持ちこたえたぜ。
しかしこのままでは体が熱いから、俺の特製高圧洗浄機で冷水シャワーをみんなにかける。
「ちょっと痛いけど我慢しろよ~?」
「ふぅ~、生き返ったぜ」
「タツヤさん、ありがとう! みんな、回復するからね」
ヨウスケがスプレーで回復ミストを撒く。なんとか助かったぜ。
「鎧が弱体化した今なら効くだろう」
その時、ミカエルがナイト軍曹の背後から必殺技”ラピッドファイア”を放った!
ミカエルの無数の弾丸がナイト軍曹の背後から叩き込まれる。毒と目くらまし効果のある特殊弾がナイト軍曹のフルアーマーに降りかかった。
「……なかなかやるな、ミカエル」
ミカエルを褒めつつも、落ち着いた余裕のある口調で言葉を発するナイト軍曹。相変わらずダメージはあまり通ってないみたいだな。
だが、ミカエルが放った”ラピッドファイア”には目くらまし用の粉が塗られている。
ナイト軍曹に着弾と共に白煙が上がり、奴の視界を奪った。毒は効いているのか分からないがな。
「今のうちにいくぜぇ~」
俺は”腕縛りの鞭”を放つ。攻撃力を下げる毒が塗られた鞭で相手の腕を縛る技だ。
「くっ! 次から次へと舐めた真似を……!」
「タツヤさんナイスゥ! オレもいくぜ! 誰がフルアーマーの中にこもっていいっつったオイオラァ!」
レイさんは両手で竹刀を構えナイト軍曹へ突撃。連続で振るわれる竹刀がナイト軍曹に叩き込まれる。
「その程度か。本物の剣術というものを教えてやる!」
ナイト軍曹の左手の剣が炸裂し、レイさんの竹刀と激突。バチンッ! と音を立て、火花が舞う。
「おおっと!」
レイさんは大きく弾き返され後ろへ転倒。目くらましを受けているのに、しかも片手の一振りでレイさんを吹っ飛ばしただとォ!?
「フルアーマーだろうと関係ねぇんだよ! こっちはなぁ、調教で鍛えたテクニックがあるんだよ!」
俺の鞭がナイト軍曹の足元を狙って一閃!
”脚縛りの鞭”。素早さを下げる毒が塗られた鞭で相手の足を縛る技だ。
「くっ……またこの鞭か……!」
ナイト軍曹は苦々しく唸った。防御力、攻撃力、素早さの低下。だが奴は鎧の中から不敵な笑みを浮かべ、バズーカを構え砲撃態勢に入る。
「……ならば俺も、そろそろ本気を出すしかなさそうだな。――イグニッション、起動!」
ナイト軍曹のバズーカは変形し砲口が唸りを上げる。砲口から灼熱のエネルギーが収束し、まるで太陽を凝縮したような灼熱の光が渦巻く。
「ヤバい! ナイト軍曹の必殺技が来るぞ!」
「みんな、全力で防御するぞ! 俺とレイさんは冷水シャワーでナイト軍曹の砲撃の威力を弱める! ヨウスケはとにかく回復スプレー撒きまくれ! ミカエルはとにかく耐えろ!」
「心得たあぁぁぁ!!」
「うん! 任せて!」
「あぁ、分かった」
俺たちは全力で防御態勢に入る。その瞬間、ナイト軍曹がトリガーを引いた!
「くらえ――イグニッション!!」
ナイト軍曹のバズーカから繰り出される巨大な爆炎が俺たち全員を包み込む!
耳をつんざく爆音、視界を奪う閃光、全身を焼き尽くす灼熱――!
「「「「アッー!」」」」
痛いんだよおおおお!!!!(マジギレ)
俺たち全員まとめて吹っ飛ばされた。俺なんか、完全に空中三回転して地面に叩きつけられたからな。
地面に這いつくばりながら、それでも俺たちは立ち上がる。俺とレイさんのシャワー、そしてヨウスケの“超回復術”がなければ確実に全滅していた。
「はぁっ、はぁっ……。みんな……生きてる? スプレー全部使い切っちゃった〜」
「あぁ……なんとかな」
「ギリッギリ……だがな……」
「……ナイト軍曹、今ので全部出し切ったみたいだぜぇ〜……」
ナイト軍曹はバズーカを肩に背負い直し、ゆっくりとこちらを睨む。
「まさかここまで耐え抜くとはな……だが、俺はまだ終わらん!」
だが、さすがのナイト軍曹も疲れているようだ。どうやらミカエルの毒が回っていたようだな。
そして俺には今こそ力を発揮できる、とっておきの技がある!
~エクスタシー~
相手が弱体に掛かっているほど威力が増す、タツヤの物理攻撃スキル。
「お楽しみタイムだぜぇ〜。ハゲが効かないならこいつで悶絶調教してやるぜぇ〜」
俺は両手に2本の鞭を構え、鞭の乱舞をナイト軍曹に浴びせた!
「ぐっ……!? まさかタツヤがそんな技を持っていたとはな……!」
今のナイト軍曹には俺の鞭による3種類の弱体化を受けている。ダメージはかなり通っているみたいだ。
「みんな、見てるかー? 今の俺、凄いダルルオ?」
「どこを見ている。バスターキャノン!」
「アッー!!」
痛いんだよおおおお!!!!(マジギレ)
ナイト軍曹のバスターキャノンをくらった俺は大きくふっ飛ばされた。
奴の必殺技”イグニッション”を浴びて消耗した直後にバスターキャノンの直撃。さすがの俺でもこれ以上は戦えないぜ……。
「みんな、俺はここまでだ……。後は頼んだ……ぜ」
「タツヤさん〜!!」
「悲しんでいる暇は無い。残った私たちでナイト軍曹を倒すんだ」
「うん、そうだね!」
ミカエルが二丁拳銃でナイト軍曹へ銃弾を浴びせる。
「まだだ……。まだ俺は倒れるわけにはいかん……!」
ナイト軍曹はバズーカからファイアウォールを発射。威力はバスターキャノンに劣るが攻撃範囲は広い。
素早いミカエルといえども回避は不可能だろう。
「うああああっ!」
ミカエルはファイアウォールをまともにくらい、倒れて戦闘不能になってしまった!
「うわー! もうおれたちしか残ってないよ!」
「いくぜ、ヨウスケ! 奴を倒せるか分からねーけどやるしかねぇ!」
「そうだね!」
レイさんとヨウスケがナイト軍曹の背後から飛び掛かる。
「うおおお! おじさん流兜割り!」
「ニートドロップ!」
ズシャッ!!
レイさんの竹刀とヨウスケの棒が、ナイト軍曹の兜を直撃。
「ぐあっ……!!」
――ガコンッ!
ついに、ナイト軍曹が膝をついた。それと同時にバズーカが地面に転がり落ちる。
「……俺の負けだ。お前たちの連携は素晴らしかったぞ。俺の装甲がこれほど破られたのは久々だ」
高い攻撃力と鉄壁の防御力を誇るナイト軍曹。俺たちはついにそいつに打ち勝ったのだ。
「なあ、俺めっちゃ頑張ったよな!?」
「あぁ、タツヤの弱体化技が無ければ全く歯が立たなかっただろうな」
「ハゲとスタンが効かないだけでこんなに苦戦するとはなー」
「回復スプレー尽きちゃったし、最後はおれとレイさんだけになって、もう駄目かと思ったよ~」
俺たちは拳を突き合わせ、勝利の喜びを分かち合った。
「へへっ、最後の試験が終わったら、そのフルアーマーを脱がしてやるぜぇ~」
「あぁ、その時が来たら相手してやるよ」
ナイト軍曹は照れ笑いを浮かべた。
その時、後ろで見ていたマティアス司令官、ハイド伍長、エーリッヒ大佐が拍手を送った。
「よくぞここまで来た。個々の強みを最大限に活かした連携、見事だった」
「まさかブラザーまで負けちゃうとはな」
「本当に良い戦いだったよ。君たちなら最後の戦いもクリアできるかもね」
こうして、第三の試験も俺たちは突破した。次はいよいよ最後の戦いか?
「次はマティアス司令官との戦いなんだよな?」
「うむ、最後の相手はこの私だ」
「いよいよだな! 俺らが勝ったら念願の軍人ホモビのモデルになってもらうぜぇ~」
「うむ、約束しよう」
その時、聞き覚えのある男の声が遠くから聞こえてきた。
「おい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」