第50話 アンタッチャブル・デスペラード

「俺が新たに開発した新兵器で、てめぇらまとめて始末してやるぜ」

 ライナスは足元へ向けて銃弾を発砲し、砂嵐を発生させた。砂嵐がミカエルたちの視界を奪う。

「どうする!? 前が見えないよ!」
「……遠くからエンジン音が聞こえてくるぞ。まさか……!?」

 砂嵐の中からエンジン音が響き渡る。大型バイクに乗ったライナスが荒野を滑るように疾走し、片手でショットガンを構えていた。

「ようこそ、地獄へ」

 ライナスが不敵に笑い、バイクに乗りながらショットガンを派手にぶっ放した。散弾が鋭く飛び散り、着弾と同時に爆発。

「「うわぁ!」」
「大丈夫か!?」

 ナイト軍曹は難なく持ちこたえたが、ミカエルとヨウスケは吹っ飛ばされてしまった。
 ナイト軍曹はバズーカを構え、バイクで疾走するライナスの動きを先読みしながら砲弾を発射していく。

「そんなトロい攻撃じゃ当たんねぇよ」

 ライナスは余裕の笑みを浮かべながらバイクを滑らせ、軽々と射線をかわしていく。
 ライナスがミカエルたちへ方向転換すると、バイクの前方が強く光り出した。

「これが俺の新兵器だ!」

 その瞬間、バイクの前方からレーザーが発射された!

「うわああああああ!」
「派手にやってくれるな」
「ここは俺が食い止める!」

 ナイト軍曹がバズーカを変形させ、シールドを展開。そのシールドでレーザーをガードした。
 シールドに着弾したレーザーは爆発。その衝撃で爆音と砂埃が巻き上げられる。

「ぐっ! さすがに無傷でガードは無理か」

 全員軽傷で済んだが、まともに当たればひとたまりもなかっただろう。
 ミカエルたちが体勢を立て直す暇も無く、ライナスは更なる追撃を仕掛けてくる。
 ライナスはバイクに乗りながら高くジャンプし、ミカエルたちの頭上から複数の爆弾を投げつけた。

「あばよ!」

 ここでナイト軍曹がシールドに装着されたボタンを操作し、広範囲のホログラムのバリアを発生させた。

「ナイト軍曹のバズーカってそんなにハイテクだったの!?」
「あぁ、軍が開発した攻防一体の武器だ。これで防げるといいのだが……」

 空中から落下した爆弾は広範囲に爆発を起こした。
 ナイト軍曹のバリアでダメージを軽減できたものの、全員がその場から吹っ飛ばされてしまった。

「うわー!」
「どうにかして奴の動きを封じないと、一方的にやられっぱなしだぞ」
「そうだな。俺は守りを固めつつ隙を伺う。ヨウスケはサポートに回り、ミカエルは隙を見て攻撃しろ」
「わかった!」
「了解だ」

 ヨウスケが回復ミストを撒き、仲間全員を回復させる。

「助かるぜ」
「今度こそ奴をバイクから引きずり降ろしてやる」

 ミカエルは身を隠しながら攻撃のチャンスを伺う。
 一方、空中から着地したライナスは再びミカエルたちの方へ引き返し、バイクを疾走させる。
 ライナスはミカエルたちに接近すると、ショットガンに特殊弾を装填し、火炎弾を発射。

「花火祭りだ!」

 火炎弾はミカエルたちの周辺へ広範囲に着弾。同時に炎が広がり、周囲を焼き尽くす。
 ナイト軍曹はバリアを張っているが、ミカエルたちの体力が徐々に削られていく。

「あっつい! このままじゃ回復スプレー切れちゃうよ!」
「まずいな。このままじゃ防戦一方だ」
「……いや、これで奴の動きをとらえられるはずだ」

 ミカエルが落ち着いた表情で、バイクで疾走するライナスを見つめる。
 ライナスは肩に数発の銃弾を受けており、先ほどまでの疾走が嘘のように、ぎこちない動きをしている。

「ちっ! あのガキ、特殊弾を撃ちやがったな……!」

 ミカエルはライナスの火炎弾と同時に、必殺技”ラピッドファイア”を繰り出していたのだ。一時的に視界を奪ったり、徐々に体力を奪う毒が塗られた銃弾を連射する技だ。
 ラピッドファイアはライナスに数発命中し、運良く彼の視界を奪うことができたのだ。

「よくやった、ミカエル。これで奴の動きを止める! イグニッション!」

 ナイト軍曹は即座にシールドをバズーカに切り替え、必殺技を放つ。
 砲口から凄まじい勢いで発射された爆炎が、ライナスをバイクごと飲み込んだ。

「ぐああああ!」

 爆炎の中でバイクは爆発し、ライナスは大きな傷を負った。
 それでもなお爆炎と黒煙が荒野に立ち昇る中、ライナスは地面を転がりながら身体の火を消し、素早く立ち上がった。

「クソが……まだ終わっちゃいねえぞ!」

 バイクが爆発した衝撃で身体中に火傷と傷を負っていたが、その双眸にはなおも闘志が燃えている。

「なんて奴だ。あれだけのダメージを受けてもなお、立ち上がってくるとは……!」
「ナイト軍曹、やつはまだ戦える! みんなで掛かるぞ!」

 ミカエルが両手に二丁拳銃を構えたその瞬間、ライナスがブーメラン状の刃を投げてきた。唸りを上げる金属の刃がミカエルに襲い掛かる。

「くっ!」

 ミカエルはギリギリで体を捻り、ブーメランの直撃を回避する。しかし、刃の先端が腕をかすめ、ミカエルは腕から血を流していた。

「ちょこまか動きやがって。だが、これでトドメだ!」

 ライナスは間髪入れずにショットガンを引き抜き、至近距離から発砲。轟音とともに閃光が走る。弾丸は爆発性のもので、着弾すると小規模な炸裂を起こした。

「クソッ……!」

 ミカエルは跳躍して間合いを取るが、爆風が直撃し、吹っ飛ばされて負傷してしまう。

「ミカエル!」
「今、助けにいくから!」

 ヨウスケがミカエルの元へ駆け寄ろうとするが、ライナスは即座にヨウスケへ銃口を向け発砲。ヨウスケに着弾と同時に炸裂を起こした。

「うわあああああああ!!」

 ヨウスケは爆発の直撃を受け、大きな傷を負い倒れてしまった。
 遠距離での発砲だった為、威力が落ちて持ちこたえることができたが、もし至近距離でまともにショットガンを受けていたら即死だっただろう。

「まずはてめぇらガキどもから始末してやるぜ!」

 ライナスは笑いながら、倒れているミカエルとヨウスケの元へゆっくり近づく。
 この時、ライナスは完全にミカエルとヨウスケに気を取られていた。

(今だ……!)

 ライナスがショットガンでミカエルとヨウスケにトドメを刺そうとしたその時、ナイト軍曹がライナスの背後から軍用の剣を振り落とす。

「おおっと!」

 ライナスはギリギリでバク転し、剣を回避しつつナイト軍曹から距離を取る。

「まだだ!」

 ライナスの着地と同時にナイト軍曹がバズーカで砲弾を発射。
 砲弾がライナスに直撃し、爆発と同時にライナスは吹っ飛んだ。それでもなおライナスはすぐさま転がるようにして立ち上がる。

 「いいねえ……これくらいやらねえとつまんねえよな!」

 ライナスは再びショットガンを構えた。今度は弾倉を入れ替え、特殊な弾丸を装填する。

「こいつは誘導弾だぜ。逃げられるか?」

 ライナスが引き金を引いた瞬間、光を帯びた弾丸が放たれる。弾は異常な軌道を描きながらナイト軍曹へ向かって飛んでいく。

「ならば防ぐまでだ!」

 ナイト軍曹はバズーカを前方に構え、シールドを展開。強固なエネルギーバリアが形成され、弾丸は弾かれる。しかし、その間にライナスは距離を詰め、ショットガンを連射。

「そのシールドをぶち壊してやるぜ」
(まずいな。このままじゃ……)

 至近距離でのショットガンの威力は非常に高く、ナイト軍曹のバリアの耐久力が徐々に減っていく。
 ナイト軍曹のバリアが破壊されるかと思ったその時、ミカエルが背後から二刀のナイフでライナスに襲い掛かった。ミカエルはヨウスケの道具で傷を回復していたのだ。

「まだ動けるのか。しぶとい奴め……!」

 ライナスはとっさに身を翻し、ミカエルのナイフをショットガンで受け止める。

「掛かったな」

 ミカエルは反撃を読んでいた。ミカエルの手から毒塗りの投刃が放たれ、ライナスの肩に突き刺さる。

「ぐっ……!」

 ライナスが苦悶の表情を浮かべた瞬間、ミカエルと同じく傷を回復したヨウスケが追撃を仕掛ける。

「これでもくらえ!」

 ヨウスケは手持ちの小袋を開け、白い粉末をライナスの顔面にサッー! (迫真)っとぶっかけた。

「ぐおっ……! なんだこれは……」

 ライナスは咳き込んだ直後、めまいに襲われた。ヨウスケが放った粉末は睡眠薬だったのだ。

「こんなところでぶっ倒れてたまるかよ!」

 ライナスはナイフを手に持ち、自らの腕をナイフで突き刺した。そしてナイフを引き抜くと同時に傷口から血が噴き出ていた。ライナスは眠気を吹き飛ばす為だけに自傷したのだ。

「うそォ!? 睡眠薬が効かないなんて!」
「だが、奴もだいぶ消耗しているはずだ」

 しかし、ヨウスケとミカエルが追撃する間も無く、ライナスが更に攻撃を仕掛ける。

「これでチェックメイトだ」

 ライナスが複数の弾倉をミカエルたち全員へ向けて投げつけ、その弾倉を銃で撃ち抜いて爆破させた。

「「うわあああああ!!」」

 爆発に巻き込まれたミカエルとヨウスケは大きく吹っ飛び、一撃で瀕死に。
 しかし、ナイト軍曹だけはダメージを受けつつもライナスに接近していた。
 爆発で視界が悪くなっているその瞬間を逃さず、ナイト軍曹は渾身の剣撃をライナスに叩き込む。

「終わりだ!」

 ナイト軍曹の剣がライナスのショットガンを弾き飛ばし、そのままライナスの胸元へ斬撃を叩き込む。

「ぐああああああ!!」

 ライナスは胸から血しぶきを出し、胸を片手で抑えながら荒野の砂地でひざまづく。

「はぁ……はぁ……クソが……!」

 ライナスは悔しさに満ちた表情でナイト軍曹を睨めつけるが、これ以上抵抗する力が残っていないと悟ったのか、諦めたような表情でうつむいた。

「勝負あったな」

 ナイト軍曹は勝利を確信し、武器をしまった。
 
「……勝てたのか? ライナスに」
「もう死ぬかと思った……」

 瀕死で倒れていたミカエルとヨウスケは安心した表情を見せた。
 荒野に吹く風が静かに砂塵を巻き上げる。軍により指名手配されていた無法者ライナスとの戦いはついに終わったのだ。