第22話 シルバーバレット

 ウルリッヒが呼び出したロボ達は広範囲に散らばり、カウントダウンを始めた。2人の周辺と足元には今にも自爆しそうな小型ロボが多数設置されている。
 ロボ達に指示を出したウルリッヒはカモフラージュの技を使用して身を隠した。背景と同化し姿を消す技もウルリッヒの改造人間としての特殊能力だ。
 
「あいつ、姿を消したがったな! マティアス、なんかヤバいことになっちまってるけど、どうしたら良いんだ!?」

 ハンニバルは慌てながらマティアスに呼びかける。早く対処しなければ周辺のロボが自爆し、2人は大ダメージを受けるだろう。
 しかし、爆発が起きる前にロボがいない外側の場所へ逃げるのは難しい。
 そんな中、マティアスが目の前の少し離れた場所にある小型ロボをライフル銃で素早く破壊していった。
 これでマティアスの視界に映る範囲にいるロボが停止し、安全地帯が出来たのが分かる。

「ハンニバル、こっちに逃げるんだ! 急げ!」

 マティアスは自分についてくるようにハンニバルに呼びかけ、2人はマティアスが作った安全地帯へ向かって駆け抜ける。
 安全地帯に着いたと同時に周辺のロボは自爆し、2人はそれと同時に前方へジャンプして前転回避した。
 さすがに爆発を完全に避けることは出来ず2人はふっ飛ばされたが、爆発が直撃しなかったおかげでダメージは少なく済んだ。

「ふぅ、危ねぇ……。マティアス、おかげで助かったぜ!」
「浮かれている場合じゃないぞ。まだ敵の攻撃は続いている」

 遠方ではウルリッヒが姿を現し、大量のロボ達を2人に仕向けた後、再びカモフラージュで姿を消していた。
 小型の自爆ロボ達が再び2人の周辺を囲う。その上、今度は飛行型の戦闘ロボ達も2人を追跡し、銃撃してきた。
 2人は銃撃を食らうが、今は飛行型ロボを攻撃している暇は無い。
 2人は先ほどのマティアスと同じように、それぞれ銃撃と砲撃で目の前の小型ロボたちを破壊し、安全地帯を作っていく。
 その後、2人は残りの小型ロボ達が爆発する前に急いで安全地帯へ向かう。
 今度は2人で広範囲の安全地帯を作った為、小型ロボ達の自爆攻撃を難無く避けることが出来た。
 2人を攻撃していた飛行型ロボ達は、小型ロボの自爆攻撃に巻き込まれて無残に散っていく。
 ロボが全滅すると、ウルリッヒが2人の背後に姿を現した。先ほどまでとは一変、今度は人狼スタイルに切り替わっている。
 目は赤く光り、表情は野獣のように荒々しく、両手からは長い鉤爪を剥き出しにしている。

「ハンニバル、危ない!」

 ウルリッヒが背後から2人に不意打ちを仕掛けようとしたところをマティアスが瞬時に気付き、自分ごとハンニバルを前方に押し倒して回避した。
 ウルリッヒは攻撃を空振りした直後も隙を見せず、地面に倒れている2人を素早く追撃し、爪を突き刺そうとする。
 2人はその攻撃をそれぞれ左右に回避し、すぐに立ち上がった。

「普通の人間の姿に戻ったと思ったら、また変身してやがる。ロボを使い過ぎて残機が無くなったってか?」

 ハンニバルは冗談交じりでからかうように言ったが、ウルリッヒが操るロボの残機が切れたのは事実だ。
 ロボを使えなくなった今、ウルリッヒには人狼スタイルで戦う以外の選択肢は無かった。
 
「その通りだ、小僧。よくぞ俺のメカ達の攻撃を耐えきったと褒めてやる。こんなに楽しい戦いは初めてだ! ハッハッハッ!」

 ウルリッヒはロボを使えなくなってもなお、余裕の表情を見せていた。彼は2人を圧倒的に上回る身体能力でねじ伏せるつもりなのだろう。
 マティアスは銃撃で、ハンニバルは拳でウルリッヒに攻撃を仕掛けるが、その瞬間にウルリッヒは姿を消した。
 姿は見えないが完全に消えているわけでは無く、気配や音は感じ取れる状態だ。
 ウルリッヒはハンニバルの背後に姿を現し、爪でハンニバルの背中を斬りつけた。

「ぐああああ!! てめぇ、いつのまに後ろにいやがる!」

 ハンニバルはすぐにパンチで反撃するが、ウルリッヒはそれを軽々と避け、再び姿を消した。

「ハンニバル、奴は攻撃する時に姿を現す。その瞬間を狙ってアレをぶち込んでやれ!」
「あぁ、やれるか分かんねぇがやってみるぜ!」

 マティアスはウルリッヒの動きを観察し、カモフラージュ能力の特徴をとらえていた。
 だが、圧倒的なパワーとスピードを持つウルリッヒの動きを捕らえるのは至難の業だ。
 マティアスは敵の攻撃の回避に専念しつつ、有効手段を考えていた。
 ウルリッヒは姿を消しては2人の死角から攻撃を繰り返し、2人を追い詰めていく。
 マティアスは敵の気配を察知し、被弾せずに回避を続けられているが、ハンニバルは一方的に爪で斬りつけられて反撃すらままならない状態だ。
 ウルリッヒもそれを分かっているのか、回避の苦手なハンニバルばかりを狙って攻撃するようになった。

「くそっ! こいつ素早過ぎてなかなか捕まえられねぇ! どうすればいいんだよ!?」

 ハンニバルは何度も体を爪で斬りつけられ、その度に血を噴き出していく。
 そうしているうちに、ようやくマティアスはウルリッヒに対抗する手段をひらめいた。しかし、それはマティアス自身も命を落としかねない危険な方法だ。
 ウルリッヒが再び姿を現し、ハンニバルに爪を突き刺そうとしたその時、マティアスはハンニバルを庇って身代わりになった。
 マティアスの胸にはウルリッヒの爪が深く刺さり、マティアスは口と胸から血を流している。

「今度こそ捕まえた……ぞ」
「……おい、マティアス! 何やってんだよ!?」

 ハンニバルは胸を貫かれたマティアスを見て激しく動揺する。

「今だ、ハンニバル! 早く奴を倒せ!」

 マティアスは吐血しながら、動揺している暇は無いと言わんばかりにすぐに言葉を放った。
 マティアスの胸に爪が突き刺さっている今ならウルリッヒも身動きが取れず、無防備の状態だ。
 ハンニバルは急いで銀の弾丸を取り出し、それを右手の拳で握りしめた。

「狼男のオッサン、とっておきのプレゼントをくれてやるぜ。受け取りな!」

 ハンニバルは銀の弾丸を握りしめた拳で、ウルリッヒの胸目掛けて渾身のパンチを繰り出す。
 拳はウルリッヒの胸を貫き、銀の弾丸は彼の心臓に撃ち込まれる。
 ハンニバルが拳を引っこ抜くと、ウルリッヒの胸からは血を噴き出し、ウルリッヒは仰向けになって倒れた。

「この銀の弾丸は戦時中の強奪品だ。まさか貴様らの手に回っていたとはな。本来、俺は心臓を撃ち抜かれてもすぐに体を再生するのだが、銀が体内に入ると肉体を再生出来なくなるんだ……」

 ウルリッヒが銀を弱点とするのは本当だったようだ。ついにウェアウルフ隊のボスに打ち勝った2人。
 しかし、喜びにつかっている暇は無く、ハンニバルは真っ先にマティアスの元へ向かう。

「マティアス、大丈夫か!? 今助けてやるからな!」

 ハンニバルは急いで衛生用品を取り出し、マティアスの胸の止血処置をした。

「私は傷を深く負い過ぎたようだ……。ハンニバル、私はお前と出会えて本当に幸せだったよ……」

 マティアスは苦しそうに、自分の死を悟ったかのように言った。
 それもそのはず、マティアスは既に心臓を貫かれて致命傷を負っていたからだ。ではまず助からないだろう。
 
「何言ってんだ! こんなところで死ぬんじゃねぇ! 俺が絶対に助けてやるから生きろ!」

 ハンニバルは何が何でもマティアスを助けたかった。ハンニバルは急いでマティアスを抱き抱えて軍事基地に帰ろうとするが、その時、瀕死のウルリッヒが倒れたままハンニバルに呼びかける。

「小僧、貴様の相棒の命を助けたければ俺の血を持っていけ。俺のバッグに空のボトルがあるから、それに入れていくと良い。俺の血を引いた人間の姿、あの世でとくと拝見させてもらおう」

 ウルリッヒはマティアスを助ける方法を親切に教えてくれた。
 その親切はウルリッヒの”自分の遺伝子を残したい”という利己的な理由によるものだが、とにかくマティアスを助けたいハンニバルは迷わずウルリッヒのウェストポーチから空のボトルを取り出し、ウルリッヒの胸の傷口から血液を可能な限り採取する。

「これで俺に死に場所が出来た。あぁ、いい戦いだったぜ……」

 ウルリッヒは自分の血を採取しているハンニバルを見ながら満足げに語り、微笑みを浮かべながら息を引き取った。

「俺もお前みたいな強い奴と戦えて楽しかったぜ。それじゃ、あばよ。人狼ウェアウルフ

 ハンニバルはウルリッヒの最期を見届けると、血液が入ったボトルをしまい、マティアスを抱き抱えてジャングルを後にする。
 幸い、外から現在位置を見渡せる場所にいたので、軍用車を停車していた場所に早く到着することが出来た。
 ハンニバルはマティアスを車の後部座席に寝かせ、全速力で軍事基地……では無く、軍事基地と協力関係にある生物兵器研究所へ向かった。