
俺たちは路地裏に入り、一軒の錆びついたトタンの家を見つけた。まるで廃墟だが、レストランで聞いた情報によると、この家に殺し屋がいるらしい。
もしそいつを味方にできれば、魔王とやらも怖くないかもな。
建物に足を踏み入れると、内部もまた荒れ果てていた。トタンの壁に鉄の床。生活には適さない作りだが、水道やキッチン、ロッカーがあり、作戦会議やアジトとしては十分な環境だ。
奥へ進むと、黒いフード付きロングジャケットをまとった人物がこちらに背を向け、スマホで話していた。
黒フードは電話を終えると俺たちの存在に気づいたのか、こちらに振り返って顔を見せた。
銀髪に青い瞳、中性的な顔立ちで、外見からは男か女か判別するのが難しい。
「ほう、このボロい空き家なら誰も近づかないと思っていたのだがな。何の用だ?」
黒フードは顔だけでなく声も中性的だ。だが俺はこいつが男だと信じたい。こんな美青年が女だったらホモの俺としては萎えるぜ。
「話は聞いてるぜ。お前が殺し屋だという噂は本当か?」
「殺し屋? そんな人聞きの悪いことを……。依頼主から依頼を引き受けて戦っているから間違いではないがな」
やはりこいつは殺し屋だ。なら話は早い。
「なら取引といこうぜ。俺らと一緒に魔王を倒してくれ。その後、脱走者探しやホモビ撮影を手伝ってくれたら、報酬は弾むぜ」
「……は? 意味が分からん」
やっぱりいきなりこんなこと言っても理解できないか。
そんな時、レイさんが俺の代わりに分かりやすく説明する。
「オレたちはタツヤさんの運営するSMバーから脱走した従業員を全て捕まえ、後にそいつらを使ってビデオ撮影する予定なんだ。そのうちの1人が魔王城に向かったらしい。だからオレたちと一緒に魔王城へ来て欲しいんだ。2人だけじゃ心細いからな」
「なるほど。ちょうど別の依頼主から魔王討伐の依頼を受けていた。同行するのは構わん」
「おお、それは助かるぜ!」
さすがレイさん。そして何より、俺たちと黒フードの目的が一致していてよかった。
「それと、魔王倒した後は、残りの脱走者探しとビデオ撮影も手伝ってくれるよな? ビデオ売れたらお前にも分け前をやるからよ」
「そ、それは少し考えさせてくれ……」
「じっくり考えろよ。お前にとっても悪くない話だと思うがな」
黒フード困惑している様子だが、調教師の俺には分かるぜ。こいつは金に目が無いタイプの人間だ。
「そういや自己紹介がまだだったな。俺の名はタツヤ。普段はSMバーの店長をやってるぜ」
「オレはレイ。タツヤさんの店の常連客だ」
「私の名はミカエル。戦闘では暗殺術が得意だ」
黒フードはミカエルと名乗った。やっぱりこいつはアサシンだったようだ。戦闘では頼りにしているぜ。
「よし、一緒に魔王をぶっ殺しに行こうぜ!」
俺たち3人は空き家を後にし、ミカエルの案内で魔王城へと向かった。たどり着いたのは、どこにでもある普通のオフィスビルだ。
「おい、どう見てもただのオフィスビルじゃねぇか」
「いや、この建物が間違いなく魔王城だ」
「ファッ!?」
魔王城って聞くからもっと禍々しい建物をイメージしてたのに、まったく期待ハズレだぜ!
俺たちは目の前のオフィスビル……いや、魔王城の中に入った。
中に入ると、フロア全体に浮遊ロボットが巡回していた。
俺たちを発見するやいなや、ロボットは警報を鳴らしながら迫ってくる。
「ロボは調教できないから厄介だぜ」
「調教できないロボは破壊するのみだ!」
「お前ら、調教のことしか考えてないのか(困惑)」
俺は鞭で、ミカエルは二丁拳銃で的確に浮遊ロボを撃ち落としていく。
その中で、レイさんが新たな技を繰り出した。
~雷耀切り~
竹刀にスタンガンを装着し、電流を帯びた竹刀で敵を攻撃する、レイの雷属性攻撃スキル。
電流を帯びた竹刀が浮遊ロボをショートさせ、爆破させた。効果は抜群だ。
「レイさん、凄いじゃナイス!」
「あの街でスタンガン買っておいて正解だったぜ」
レイさんのスキルがどんどん増えていくぜ。俺もそろそろ新スキル覚えないとな~。
浮遊ロボをある程度片づけたところで、俺たちは次の通路へ進もうとした。
だがその時、壁の高い位置に設置されている監視ロボが俺に向けてレーザーを放った。
「アツゥィ!」
「タツヤさん、大丈夫か!?」
俺はレーザーを食らって火傷してしまった。
俺の傷口にレイさんが冷水シャワーをかけてくれたおかげでなんとか助かったぜ。
ミカエルは銃で監視ロボを撃ち落とそうとするが、この距離では攻撃が届かない。
「あそこの道は諦めよう。他の通路を通れば先へ進めるかも知れん」
「仕方ないな、そうするか」
ミカエルの言う通り、俺たちは正面突破を諦めて遠回りすることにする。
別の通路を進んでいくと、行き止まりの壁に1つのスイッチが設置されているのが見えた。
「もしかしてこれって、押すと先に進めるスイッチじゃねーの?」
「気をつけろ。罠かも知れないぞ」
「大丈夫だろ、押そうぜ」
俺とレイさんはミカエルの静止を無視して壁のスイッチを押す。
すると、フロア全体に機械音がゆっくり鳴り響いた。
俺たちは罠かと思ってヒヤヒヤしたが、敵が襲ってくる気配は無く、この音はどう聞いても警報では無い。
しかし、どこかに変化が起きたのは間違いないだろう。
俺たちが元の場所へ戻ると、行く手を阻んでいた監視ロボが無くなっていた。
「あれは監視ロボを消すスイッチだったんだな」
「ほら言ったダルルォ? 大丈夫だって」
「タツヤさんの直感に間違いは無いんだぜ」
行く手を阻む監視ロボがいなくなったところで俺たちは先へ進む。
階段を上ると、そこは広々としたオフィスとなっており、職員と思われるハゲの男たちが徘徊している。
「侵入者だ! 撃て!」
「ファッ!?」
職員たちが俺たちに銃を向けて発砲してきた。オフィスにお邪魔しただけでいきなり発砲してくるとは物騒な奴らだぜ!
俺たちは急いで銃弾を避けようとするが、さすがに全弾回避は無理だった。痛ってぇぜ……。
そんな中、ミカエルだけは銃弾を軽々と避けて反撃に転じていた。
~クイックドロー~
素早く銃弾を発射し、複数の敵を打ち抜く、ミカエルの範囲攻撃スキル。
ミカエルは二丁の銃を巧みに操り、職員どもを一層する。
さすがはアサシンと言ったところだ。俺たちはこの殺し屋を雇って正解だったぜ。
倒れた職員どもはまだ息はあるようだ。弱った人間に俺たちがやるべきことは決まっている。
「へっへっへ……俺らに喧嘩を売ったお礼をしてやるぜぇ~」
俺とレイさんは弱った職員どもを調教した。どんな人間も殺さずに調教するのが調教師のモットーだ。
「ワン……ワン……」
「これは一体……?」
調教されて犬奴隷になった職員どもの姿を見て困惑するミカエル。
「おっと、言い忘れたが人間を殺しちゃ駄目だぜ。どんな人間でも調教すれば立派な奴隷になるからな」
「タツヤさんの言う通りだ。今後の為にもミカエルも調教スキルを身に着けてもらおうか」
「何だと?」
俺とレイさんは、人間や動物を調教するのに必要なスキルや力加減をその場でみっちりミカエルに叩き込む。
すると、ミカエルは10分程の訓練を経て調教スキルを身に着けた。
短時間で調教スキルを身に着けるとは、こいつは調教師としての才能もありそうだな。
その後も俺たちは更に上の階を上り、順調に先を進んでいく。
「おーい! 誰か助けてくれー!」
どこからか男の叫び声が聞こえる。敵の罠か、それとも魔王城に捕らわれた人間なのか、敵だったらこの男も調教してやるぜ。
「おう! 今助けてやるから待ってろ!」
俺たちは男の声が聞こえる方向へ向かっていった。